略奪して結婚
大学の先輩である夫と出来ちゃった結婚をしたのは私が社会人になってすぐのことでした。
卒業後、飲み会で再開した私たちは酔っぱらってホテルへ行き、一夜を共にしてしまいました。そしてその1回で妊娠してしまったのです。
夫はかなり戸惑っているようでしたが、学生のころから夫のことが好きだった私は、これは運命に違いない、と思いました。
絶対に産みたいというと、夫は観念したように結婚しようと言いました。
実は、そのころ夫には長く付き合っている彼女、Y子がいました。幼馴染で高校の時から交際ていたそうです。
同じ大学のサークルに入っていたので彼女のことはよく知っていました。二人は公認の仲という感じでとてもお似合いでした。
そんなY子から夫を奪った女として、大学の仲間からは陰口を言われていたことは知っていますが、私にはどうでもいいことでした。
幸せな日々が一転
やがて娘が生まれ、夫は娘にメロメロになり、溺愛するようになりました。
娘は夫と私の良いところだけを取った顔立ちをした美少女で、児童劇団からスカウトが来るほどでした。
夫は娘と時間を過ごすため、飲みに行くこともほとんどなく、早く帰ってきましたし、休日は家族で色々なところに行きました。
マイホームも手に入れて、順風満帆な生活でした。
しかし、娘が小学校三年生になったころ、夫から急に「離婚したい」と言われました。
なぜなのかと聞いても、しっかりと養育費と慰謝料を支払うし、離婚しても育児は協力してやっていくつもりなので、頼むから離婚してほしいの一点張り。
そして、夫は家を出て行ってしまいました。
私は実家が裕福だったので、親からお金を借りて、探偵を雇いました。そして夫がY子と暮らしていることを掴んだのです。
あの女の影
まさか今更Y子が現れるなんて。
夫に電話して、Y子のことを問い詰めるとあっさりと白状しました。
「君と結婚してからも、Y子のことが忘れられなかった。君と娘には悪いが、Y子と人生をやり直したい」
そう真剣な口調で言われましたが、到底受け入れられません。
義父母に相談すると、はじめは「絶対に離婚しなくていい、Y子とは別れさせる」と言っていたのですが、1年、2年とたつうちにトーンダウンしていきました。
Y子と夫の付き合いは長かったため、義父母も当初はY子と結婚するものだと思っていたそうです。
正直、私はあまり義父母には好かれておらず、Y子のほうが良かったと遠回しに言われたこともありました。
生まれた子が女の子だったことも気に入らなかったようです。
話し合いは平行線
お互いに弁護士をたて、話し合いは何度もしましたが、平行線でした。
別居が長くなると離婚理由になってしまうということで、焦燥が募ります。だんだんと夜眠れなくなり、体調を崩しがちになりました。
娘にも反抗的になったり、学校へ行くのを嫌がったりといった良くない兆候がみられだし、実母からも「いつでも帰ってきて良いから」と言われ、もう潮時なのかもしれないと諦めだした頃、思いもよらない事態になったのです。
帰ってきた物言わぬ夫
夫が職場で倒れました。脳梗塞でした。
連絡は私の方に来ました。夫が何かあった時の緊急連絡先を変更していなかったためでした。当然ですが、会社に不倫しているということを知られたくなかったのでしょう。
娘と一緒に急いで病院へ駆けつけました。夫はまだ意識がありましたが話すことはできず、私の顔を複雑そうな表情でみつめていました。
そしてその日の深夜、容体が急変し、亡くなりました。
Y子には、夫が亡くなった翌日に私から連絡しました。取り乱した様子でしたが、Y子には何の権利もありません。
夫の遺体は葬儀場へ運ばれていましたが、対面することもできません。
夫の通帳などは義父母が取りに行き、Y子のことは葬儀にも参加させませんでした。
私は、妻として喪主をつとめました。
義父母も、夫が不倫していたというのは体面が悪いからでしょう、Y子など存在しなかったように振舞っていました。
夫には、まとまった額の貯金があったので、私と娘で相続しました。
こうして、夫は私と娘のもとに帰ってくることになったのです。
夫婦の絆
夫が亡くなっても、今まで二人で暮らしてきた私と娘の生活は変わりません。
夫の建てた家で穏やかに暮らしています、夫が亡くなったと思うと、不思議と体の不調はなくなりました。
もしかしたら、私は夫と別れるのが嫌だったのではなく、Y子に奪われるのが我慢ならなかったのかもしれません、
娘はまだ情緒不安定になることがありますが、私がしっかりと寄り添ってケアしていくつもりです。
死ぬ前に好きな人と生活することができた夫はきっと幸せだったことでしょう。
Y子のその後はわかりませんが、どんなに気持ちの上では愛し合っていようと、不倫関係では世間的には認められないものだということが身に染みてわかったのではないでしょうか。
夫婦の絆には勝てるわけがないのです。